『陰陽師 飛天ノ巻』夢枕 獏(文春文庫) ’06 2/27

評価;A

相変わらずこの二人の物語は面白いし、
自分の気持ちを率直に表現していることが読んでいて清々しい。

「なんだか、おれは、みんなに馬鹿にされたような気がするよ」
「そんなことはない。みんな、おまえのことが好きなのだ。兼家殿も、超子殿もな。そして、おれもだ。だから、おまえに気をつかったのだよ。(中略)」
「晴明よ、おまえは、おれをなぐさめてくれているのだろうが、おれは嬉しくない」
「嬉しがることはないが、哀しくなることはない。おまえは、皆にとって、必要な人間なのだ。おれにとってもな――」
「うむ」
「おまえは、ほんとうに、よい漢(おとこ)だからな」
 晴明は言った。
「やはり、嬉しくない」
 博雅は複雑な表情でつぶやいた。
 晴明は困ったように頭を掻いた。
「飲むか」
「飲む」
 そうしてふたりは、またほろほろと酒を飲みはじめたのであった。
(本文P.150,151より引用)

こんなちょっと間違えば恥ずかしくてたまらなくなるような、
または詭弁とも取れるような言葉でも、
この二人が互いに交わしている言葉であればそれは真実なのです。
この関係が、読んでいて楽しく、また少し羨ましくもある。

ちなみに今回の『飛天の巻』の中で私が一番好きな話は
「鬼小町」です。
や、この辺に私の性格の悪さが出てるのかもしれませんが、
アンハッピーエンドって結構好きなんですよね。(笑)
特に、書いている作品のほとんどがハッピーエンドである作家さんのとか。
まぁ、今回は、あの小野小町をこういう救われない鬼として
登場させた意外性に驚嘆したためでもありますけどね。
面白かったです。

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